翻訳記事5:トレーニングって何? by Pamela Clark
Pamela Clarkさん(獣医師、行動コンサルタント)が2週間に1回発行しているニュースレターの翻訳をさせていただいています。
今回の記事はそもそもトレーニングって何?という内容です。Pamelaさんがこの記事で書かれている内容は、「その通り!」と私も頻繁に耳にする疑問であったり、それに対する回答も同じような内容(全てではありませんが)を飼い主さんたちにお伝えしてきた身として共感が持てる内容です。
とても興味深いことに、応用行動分析学に基づくトレーニングを行うことで、対象としていなかった問題行動(鳥さんの方は問題とは思っていませんが)まで改善することを経験上知っているので、最初は飼い主さんは半信半疑であったとしても、後々どんどんこのご褒美トレーニングにはまっていく姿を幾度となく目の当たりにしています。鳥さんをトレーニングしているようで、実はトレーニングをされているのは人側なのかもしれません。
正の強化(Positive Reinforcementポジティブレインフォースメント)を使ったトレーニング法は、「誰でもできる方法」だと言われています。本当にそうだと思います。ただ、これをまずは人側が体でマスターするにはちょっとしたコツがあるのは否めません。このコツを知るためには、周りに尋ねる人がいない場合は一番身近な先生に教えてもらうしかありません。その先生とは、鳥さんです!
うまくいかない場合は、やはりやり方が適切ではないという証拠です。決して、鳥さんが悪い訳ではないということを念頭においていただきながら、自身の動きやタイミングを試行錯誤していくことで、バチッとはまる瞬間があるはずです。
~ Special Thanks! ~
今回の記事は野中さんに翻訳をしていただきました!
野中さんは、過去に私の個別相談を受けてくださった飼い主さんで、ありがたくも翻訳にご協力をいただきました。本当にありがとうございます!!
Pamela Clarkさんのホームページ
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『トレーニングって何?』 2018.9.12

この写真、私は見てすぐに好きになりました。この鳥は「とにかく僕に何をして欲しいか教えてくれないかな?」と考えているように見えます。 インコやオウムが問題行動を見せはじめるとき、その原因は何かが間違った方向であるか、何かができていないことが合わさっていることが普通です。
ほとんどの場合、鳥の日常生活を作り上げていく過程で何かが間違っています。これが、飼い主側の世話が足りないからということは滅多にありません。むしろ、鳥のケアについての正確な、信頼のおける情報を見つけることの難しさによるものです。
そういった状態であるので、食餌のバランスが取れていないのかもしれませんし、ペアあるいはパートナーとみなされてしまっているのかもしれません。また、鳥がすることがなかったり、ケージの外に出してもらえる時間が足りていないのかもしれません。
それに加えて、行動のトレーニングがないがしろにされているのかもしれません。

不適切な食餌、パートナーとみなされている関係、不十分な環境整備、鳥への効果的なガイダンスの不足、イコール、問題行動につながるのです。「効果的なガイダンスの不足」とは、鳥の行動が望ましい方向に向かうような指導を飼い主から受けていないということです。
そんなわけで、ほとんどの行動コンサルタントは似たような方法をとります。変化が必要であれば、食餌を改善し、社会性を育み、エンリッチメントと鳥が自分で意思選択をできるような機会を増やします。こうして鳥のニーズが確実に満たされるようにし、行動を変えるための計画を建てる際には、その鳥を成功に向かわせることができるのです。 必然的に、トレーニングの話をせざるを得なくなるのですが、ここから話は面白くなります。 最近、クライアントの一人から、「実際のところ、トレーニングとは何なのですか?」という質問を受けました。とても素晴らしい質問ですし、多くの人がトレーニングについて間違ったとらえ方をしていると思っていますので、ここでそれについてお話しできることを嬉しく思います。 多くの人々が、「正の強化」について理解していません。彼らは、クリッカーを使ったトレーニングについては、それがまるで別のもっと特別なことであるかのように語ります。そうではないのです。クリッカートレーニングは、正の強化を使ったトレーニングなのです。クリッカーは、鳥が何か正しいことをした時にそれを鳥に伝える音を出すために使われるものです。それによって、ご褒美を与えるまでの時間を稼ぐことができます。ほとんどの場合、言葉も同じことが可能です。
トレーニングは、動物に特定のスキルや行動を教えるためのプロセスです。

もちろん、これは単純化しすぎた定義ではあります。もう少し正確で、科学的な定義をすると、トレーニングは特定の刺激に対して特定の反応をすることを教えることが関係しています。もう少し話を広げると、トレーニングは、好ましい反応を伸ばし、好ましくない反応を抑制することを含むと言えるでしょう。例えば、私たちは、鳥が人間の注意をひきたい時には、叫ぶかわりに言葉を話すということを教えることができます。また、床に降りて歩き回るのではなく、止まり木に止まったままでいるということを教えることもできます。

優れたトレーナーは、正の強化を使ったトレーニングを行動を変えさせるための基本の方法として使います。正の強化とは、鳥が好ましい行動をした時に、その鳥にとって価値のあるものを与えるというプロセスです。多くの場合、トレーニングを始める時は、他にご褒美となるものが見つかるまでは、食べ物が強化子(ご褒美)として使われます。
では、なぜ私が行動の相談を受けるとき、トレーニングの話をすることになってしまうのでしょう?それには3つの理由があります。
まず最初に、鳥に新しい行動を教えると、ほとんど自動的に問題行動が減ります。いくらか素早く成功につなげることができ、この即効性は有益です。 次に、鳥は、問題行動を忘れ、代わりに他のもっと望ましい行動を学ばなければなりません。これには、例えば、教えるというようなトレーニングが必要です。 3つ目には、多くの鳥たちが飼い主をペアあるいはパートナーとみなしている関係を築いてしまっており、それはまさに私たちが解決しようとしている問題行動に繋がっているのです。飼い主は、何らかのトレーニングを始めることで、鳥が物理的な接触ではなく、自分にガイダンスを求めるように仕向けることができるでしょう。

この写真は、望ましい状況を写しているかのように思えます。しかし、そうではありません。鳥との社会的な結びつきを、身体の接触に集中させてしまうとみな失敗します。あなたは、飼い主として、鳥を機知に富み、頭が良く、驚くほど高い能力をもった生物として見ることができなくなってしまいます。そして、あなたの鳥は、新しいことを学ぶことによる、もっと幸福な生活を逃してしまうのです。 トレーニングの利点を誰かに納得してもらったとしても、「うちの鳥は食べ物で動機付けができないのでトレーニングができないんです。」という懸念をよく聞きます。実際、同じことをオンライン上でもよく目にします。これは一般的な認識なのです。 この懸念について考えてみましょう。それは、その鳥にとって食べ物を食べることが動機付けにならないという考えを示しています。この時点で、それは間違っているとわかりますよね?鳥にとって、食べ物は生きるために必要なものですから、当然彼らは食べ物に動機付けられるはずなのです。 こんなことを飼い主が言うときは、彼らの鳥が、指示された行動に対しておやつを受け取ることに興味を示していないように見えるということが多いのです。それは、全く別の問題であり且つ、常に同じ問題です。もし鳥がおやつをもらおうとしないのなら、高脂肪・高炭水化物の食事を日々の食餌で与えられすぎているということがほとんどです。

鳥の行動を変えようとする前に、食事から見直さなければいけないことが多いのはこのためです。もし、配合餌と新鮮な野菜、少しの果物に食事を切り替えれば、あなたの鳥は食べ物でやる気を出すようになります。実際、シードとナッツ類は、強化子(ご褒美)としていつもの食事としては別にしておくのがベストです。これでwin-winの状況が生まれます。鳥たちはご褒美がもらえるけれど、餌入れから見つけるのではなく、得られるような努力をしなければならないのです。 鳥たちに教えられる行動はいろいろあります。目的物に触れたり、くるっと回ったり、手(脚)をふったりなど、簡単で楽しい行動を教えることもできます。肩に飛び乗ってくるのではなく、腕にとまっておくように教えることもできます。床に降りていって人間の足や他のペットを脅かす代わりに、特定の止まり木にとまっておくように教えることもできます。合図にしたがって飛んでくるように教えることもできます。シリンジから喜んで薬を飲んでくれるようにすることもできるし、言えばキャリーケージに自分から入ってくれるようにすることさえできるのです。私たちが鳥たちに教えられること、彼らが学習できることには際限がありません。
こういうことは、誰でも教えられるのです!プロのトレーナーである必要はありません。あなたがどんなにトレーニングスキルがなくとも、鳥たちがどれだけ優しく、柔軟で、順応性があるか、驚かさることでしょう。彼らはそれでもかなり素早く学習するし、それを楽しんでくれるのです。

しかし、人にとっては、トレーニングは最初のうちは簡単という訳ではありません。集中を必要とするので疲れるかもしれません。多くの人にとっては、注意が分散してしまうのに慣れてしまっているので、トレーニングの際のような集中はなかなか大変かもしれません。 多くの場合、最初のうちのトレーニングでは、いかに私たちの手と目が一緒にうまく動いてくれないか、思い知らされることになります。つまり、トレーニング自体は目的物を触らせるような単純なことであっても、私たちが練習しなければいけないのです。私たちが慣れて自然にできるようになるまでは少し繰り返し練習が必要かもしれません。
最近、私のクライアントの一人もこんな状況でした。フラストレーションを感じて、「私はトレーナーなんかじゃないんです!」と言っていました。今、何人の方々が同じように感じて頷かれたでしょうか?私自身も、そんなことを言ってしまったかもしれないことはありました。 本当は、私たちは皆トレーナーなのです。動物たちは、人間との社会的な関わりの、一つ一つから常に学習しています。彼らの学習能力は、オン・オフはしません。彼らが常に学習しているなら、私たちは常に教えているのです。
Photo by Ruth Caron on Unsplash.com

不満なそのクライアントに指摘しましたが、彼女もトレーナーなのです。彼女の鳥が叫んで攻撃的に唸るよう、彼女はとても効果的に教えていました。そのトレーニングが彼女本人が意図したわけではないというのは関係ありません。彼女の反応が、プロの力を借りなければ解決できないほど深刻な問題になるまで、鳥の行動を強化してきたのです。
なので、私たちには選択肢がありません。私たちは皆トレーナーであることを受け入れなければいけないのです。私たちには、自分の鳥たちとの関わり方が、彼らに何を教えているのか、常に考える責任があります。ある時、バーバラ・ハイデンライクが「動物が私たちを意識しているならば、私たちもその動物を意識しなければならない。」と言っていました。私はこれより優れたアドバイスを聞いたことがありません。

私たち皆それぞれが、他人の行動に影響を及ぼす力を持っていることを毎日意識していたら、世界はもっと良い場所になると思いませんか?他の生物と社会的な関係を持つ時に「この瞬間、私は何を教えているんだろう?」と自問できるようになったら、どうでしょう?私たちの飼い鳥たち、そして全ての動物との関係は必ず改善するでしょう。そして、他の人たちとの関係も、もっと優しく、思いやりのあるものになるのではないでしょうか。
トレーニングと行動の原則について学び、正の強化を日々の全ての生物に適用するだけで、どれだけ世界を変えることができるか考えてみてください。少なくとも私たちの鳥たちは素直に純粋な姿で羽ばたいて一生を過ごしてくれることでしょう。